考え、議論する道徳の実践 ~傍観者教育とアプリによるいじめ対策~

1. はじめに
 全国の小中学校では、道徳の教科化に伴う新たな取り組みが始まっています。そうした中、柏市では『いじめ』解消を目指した実践が行われ、多方面から注目されています。導入時から本事業に携わっている菅原仁人指導主事にお話を伺いました。

 

2. 柏市教育委員会の問題意識
 平成二十五年度に『いじめ防止対策推進法』が、施行されました。以来、全国で認知件数の報告が義務付けられましたが、柏市での「認知件数」は年々増え続けています。たとえば、平成三十年度は小学校三〇七八件、中学校七〇七件であり、これは千葉県の二十九年度全認知件数の一割ほどです。もちろん、柏市が異常に高いのではなく、各校が法に基づいてしっかり数字を調べて計上している証左と言えるでしょう。こうした背景のもと、柏市では千葉大学・藤川大祐教授、敬愛大学・阿部学准教授と共に、二つの計画作りに着手しました。平成二十六年度のことです。

 

(1)傍観者の観点でいじめを考え、議論する道徳授業『私たちの選択肢』
 一つはいじめについて考え、議論する授業です。藤川教授の監修のもとで開発されたDVD教材(約十五分)を視聴して、生徒は議論をします。物語はストーリーが完結しておらず、後の展開を想像することで生徒は「自分だったらどう考え、行動するのか」、その選択を迫られます。柏市ではこの道徳授業を中学一年生全員が受け、いじめ問題を主体的に考える機会を持つという計画を立てました。

 

(2)いじめ防止対策のために『STOP IT』アプリを導入
 そしてもう一つは『STOP IT』アプリの導入です。柏市の調査では、いじめを受けた児童・生徒の中には『誰にも相談をしていない』と答える割合が高く、平成三十年度の問題行動調査においても小学生一一四人、中学生二三人がそのように回答しています。こうした生徒からのSOSをどうすれば受け止められるかが、大きな課題となっていました。
 
 中学生のスマートフォンの所持率は七五%ほどです。持っていない子もいるので不公平ではないかという議論もありましたが、一定の効果が期待できると考え、まずは中学校でアプリの導入に踏み切りました。 

 『STOP IT』アプリだけでなく『LINE』も全国のいろいろな自治体でいじめ通知に活用されていますが、柏市は道徳の授業と組み合わせて活用を促進しているのが特徴です。

 

3 いじめの未然防止に向けて早期対応の実践
(1)いじめ防止をテーマとした授業の実施
 小学生対象には「いじめ防止授業」と題するテーマで道徳授業を展開しています。『いじめがなぜ許されないのか』をテーマに、教育委員会の指導主事が、市内の小学校で『出前授業』を行い、児童の心に働きかけていきます。平成三十年度は七八学級、二三八六人に実施しました。まだ小学生へのアプリ活用までは踏み切っていませんが、いじめ防止に着実な成果が表れています。
 
 中学生向けには先に触れたDVD視聴を通していじめ問題を考える『私たちの選択肢』を配布しています。この教材のねらいは、生徒が傍観者の視点でいじめを考え、議論をするというところにあります。実際に、生徒の話し合いが活発に進むクラスは多く、いじめを許容しない雰囲気の醸成につながっていると言えるでしょう。

 

 

(2)『STOP IT』アプリの導入による成果
 こうした取り組みの成果は着実に表れ始め、平成二十九年度に一三三件だったアプリでの相談件数が一六五件と二割以上も増加。「誰にも相談したことがない」という生徒の数も平成二十七年度には五九名だったのが、平成三十年度には二三名と半数以下になっています。
 
 この数字は、別に開設している『いじめ相談窓口』に寄せられたEメール、および電話件数と比較してみると、数字の大きさが認識できます。
 
 そしてアプリに寄せられる相談の中で、最近目立ってきたのが、先生の指導に対する意見です。こうした変化も、課題を早期に把握して、学校を開かれた場にしていく意味でも、前向きに受け止めてよいのではないでしょうか。

 

4 さいごに
 柏市のこうした取り組みは、昨年度だけでも一〇〇を超える自治体からの問い合わせがありました。「まだ始まったばかりで課題はいろいろありますが……」と口元を引き締める菅原指導主事。今回は第一報として事業の概要をお伝えしましたが、次回はさらに具体的に、柏市内の学校現場の様子などをお伝えできればと思います。
 
 また、いじめ対策に成果を上げている実践的な取り組みとしては、今号の『コーチング』で触れている『ピア・サポート』が挙げられます。こちらにつきましても、最近の様子など、注目してまいります。


<NO. 156 令和元年9月1日発行より>

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