中高生が学ぶコーチングセミナー “つながる力”を強めるコーチング

一、はじめに

 私は大学卒業後、東京の企業に三年勤め、二十五歳の時に郷里の浜松市に帰ってからも、IT部門の仕事に関わってきました。そして五十六歳の時、体調を崩して退職。その後「わが天職」と直感したコーチという仕事に出合い『コーチングアカデミー』という学校で学び、コーチ養成インストラクターの資格を取得しました。
 
 現在は同校のインストラクターを担当しつつ、ビジネス、パーソナル、教育、ケアなどの分野で「人を元気にする幸せ配達人」を目指して活動中です。 

 現在は、仕事の一環として「ピア・サポート活動」を推進している中高生に「中高生のためのコーチングセミナー」を開催しています。「ピア・サポート」とは、ピア=「仲間」、サポート=「支援・援助」であることから「仲間による支援」を意味し、子どもたちが相互に支え合う活動です。学校でのいじめや不登校をなくすため、子どもたちのコミュニケーション能力を高め、互いに支え合い助け合う力を育む活動として、注目されはじめています。
 
 ここで求められるスキルが、コーチングの手法と重なりますので、真剣に学ぼうとする中高生の姿が見受けられます。中学校の引率の先生から「三時間以上もの講義と演習を真剣に、熱心に受けている生徒の姿を初めて見ました。私の授業の時とは大違いなので驚きました。教師にとっても、大変よい学びとなりました」との声をいただくこともありました。ここでは、中高生とのコーチングの学びを基に、説明用資料を交えながら紹介いたします。

 

二、コーチングの素晴らしさ

 コーチとは一言で言えば「ビジネスや個人の目標達成の支援者」「人の夢の実現を支援する人」のことを言います。コーチングの特徴は、専門のトレーニングを受けたコーチがクライアント(依頼者)の実現したい目標を聞き出し、それを達成するために何をしたらよいか問いかけ、解決策を引き出すことにあります。
 
 つまり、コーチが「正解」を提示するのではなく、聞き役に徹することで、クライアントが自発的に目標実現の方策を引き出す、一種の質問型コミュニケーションスキルなのです。
 
 また、精神的ケアではなく、クライアントの「人間力」を高め、具体的な行動を引き出すところが、カウンセリングと違うところです。

 

三、最も必要な能力とは
  セミナーの中で毎回、中高生に私は、次のような問いかけをしております。
 
 『幸不幸を決めるものの内で、最も大きな部分を占めるものは何でしょうか?
 
 九割の人が○○がうまくいっている時、幸せを感じる。
 
 九割の人が○○がうまくいっていない時、幸せを感じない。この幸不幸を決めてしまう九割を占める○○とは、一体何でしょうか?

……
 
 その答えは「人間関係」です。ということは、「コミュニケーション能力」を高め、人間関係を良くすることができれば、九割もの人が幸せになれる、ということになります。
 
 「コミュニケーション能力」とは、互いの思いを理解し合い、信頼を深め合って、豊かな人間関係を築く「つながる力」のことです。では「つながる力」を高めるにはどうしたらよいのでしょうか?


四、つながる力を高める
  一般にコミュニケーション能力と言えば、自分と他者との関わりをイメージされると思います。
 
 私は自分の闘病体験から、まず「自分自身とつながる」ことの大切さを痛感しています。営業ノルマが達成できず、体調を崩して苦しんでいた時は、自分自身が大嫌いで、あるがままに自分を受容することができなかったのです。どうすれば自分のノルマを達成できるかを考えるのに精一杯で、笑顔も消え、他者に思いやりの心で温かく接するなどという、心の余裕は全くありませんでした。
 
 「その後の学習で長所も短所も併せ持った自分自身を、あるがままに受容できなければ、他を受容することはできない」と知ることができたのです。
 
①自分自身とつながる
 「自分自身とつながる」とは、「自分自身を好きになる」ことだとも言えましょう。私はいつも、自己肯定感を高め、自分自身を好きになるためには、どうすればよいかを考え続けています。
 
 その中で中高生たちにも活用しているのが「劣等感を取る訓練」「自分を好きになる訓練」「プラスの言葉を使う訓練」「ピンチをチャンスに変える訓練」などです。

 

・「プラスの言葉を使う訓練」
 日常使う言葉をプラスに変えよう。すると潜在意識の中のプラスの部分の比率が高まり、問題に直面してもプラス思考ができるようになるから、と説明して、プラスの言葉を書き出してもらっています。

 

・「ピンチをチャンスに変える訓練」

 セミナーでは次のような演習をしてもらっています。 

  脳の働きを調べてみると、出来事をどう受け止めるかによって、ホルモンの分泌が変わることがわかっています。つまり、物を見た時の「快(好き)・不快(嫌い)」の感情に基づいて、〇.五秒でホルモンの分泌を脳が指示してしまうのです。
 
 そこで〇.二秒以内に「チャンス」というと、脳は良いことが起こっていると勘違いして、チャンスの理由を探し始めるのです。
 
 形式は、二人一組になって、自分が体験したマイナスの出来事をプラスに受け止める演習をしていきます。
 
②大宇宙・先祖とつながる
 今、生きていられることに感謝できるようになると、恩返しのために自分にできる範囲で、周りの人の幸せの役に立とうという「思いやりの心」(道徳心)が芽生えてきます。
 
 私たちは、大宇宙・大自然から多くの恵みをいただき、親・先祖の懸命な「“いのち”のバトンリレー」のお蔭で、私にまで命が引き継がれてきています。また、先人先輩の苦労・努力・発明・発見のお蔭で今の豊かな生活が享受できています。
 
 言い換えれば、私たちは多くの恵みに「支えられ、守られ、許されて、生かされている存在」なのです。これに気づいていただくために、私は「大宇宙・大自然の恩恵に気づく訓練」「親・先祖の数と“いのち”の重さに気づく訓練」「先人の恩恵に気づく訓練」などを楽しみながら味わってもらおうと考え、たとえば次のような話をします。

  「自然界の生物は、生態系の中で『食い、食われる』の関係の中で生きています。しかし、私たち人間は、生態系の頂点にいるため、他の動物に食べられるという心配をしないで済む、全く恵まれたポジションにいます。試しに皆さんにお聞きしますが、この会場に来るまでに、何かに食われちゃうんじゃないかと、心配しながら来られた方はおられますか?(会場に笑い)
 
 この地上には、三千万種類の生物が存在しているそうです。三千万の生物が書かれたカードが入った抽選箱(その中に人間というカードは一枚だけ)を、神様が皆さんの前に持って来て『この中の好きなカードを一枚引いてください。その生物としての“いのち”を与えます』と言ったとしたら、どうでしょう? 

 人間として生まれることのできる確率は、三千万分の一です。それほど、人間に生まれることはあり得ないほど難しいのです」。

 

③他者とつながる
 前述の二つの「つながる力」が強化されるほど、他者と良好につながりやすくなると言えましょう。 

 他者とつながるための主要なコーチングスキルには『傾聴』『承認』『質問』『提案』の四つがあります。これらのスキルを充分に身につけて、ピア・サポート活動に役立ててほしいと願っております。
 
 そもそも、人の話を聞くには三つの方法があることを伝えてから、『傾聴』の大切さを体験する場を用意します。そして同時に「相手に気持ちよく話してもらう聞き手の工夫」も伝えた上で、相手の長所を見つけて褒め、元気づける『承認』の演習も進めていきます。
 
 『質問』については、否定質問が相手の心をマイナスに導き、肯定質問がプラスに導くことを伝え、否定質問を肯定質問に変える演習や、相手の選択肢を増やすための『提案』も経験してもらっています。
 
 これらの総合演習として、二人一組となり、話し手に「将来の夢」を話してもらう機会を作ります。聞き手はこれを『傾聴』しながら、話し手の良いところを見つけて褒める『承認』と、話し手の夢を膨らませる肯定的な『質問』をし、最後にその夢をかなえるのに役立ちそうな『提案』をすることで、演習がしめくくられます。

 
五、さいごに 
 相手の思い(気持ち)をしっかりと共感的に受け止め、長所を見つけて褒め励まし、新たな気づきを促す肯定的な問いかけを行い、さらに相手の役に立ちそうな提案をするという訓練は、思いやりの心を行動に表す「道徳教育のツール」として、とても有効だと確信しております。

 最後に、三時間余の講義と演習に参加された中高生たちのアンケートを紹介して、結びとします。


●アンケートより
 楽しく、役に立つ話をたくさん聞けたし、話し合いが多くて嬉しかった。将来の夢を話し合うところが、一番心に残った。ピア・サポートから離れてしまうが、進路先で使える! 前回参加したので知っていたこともあったが、新たに考えることもあって、時間の流れが自分を強くしてくれたと感じ、成長感が持てた。二回目だけど来てよかった!!( 高校生)

 

 知らない人と話す貴重な体験ができて満足です。宇宙・先祖とつながる演習が一番心に残りました。このセミナーを受けて、周りの人を支えたり、明るくポジティブな人になって、周りを明るくする人になりたいと思いました。自分の命や人の命の重みを感じることができたので、もっと友達や先生を大事にしていかなくては、と思いました。自分の知らなかったことをたくさん学べましたので、これからの人生に、大いに役立つと感じました。( 中学生)

 

 コーチングを学んで、自分が人間として生きていられる尊さを知ることができました。肯定的な言葉を多く使って短所を長所に変えたり、ピンチをチャンスに変える方法を知ることができたので、今後の人生に大いに役立ちそうです。命についての話で、一人ひとりに本当に多くの先祖がいることを改めて感じ、誰一人傷つけてはいけないと思いました。学校の「ピア・サポートタイム」でピンチをチャンスに変える演習などを取り入れて広めたいです。話を伝える表現の仕方から思いが伝わってきました。ありがとうございました。( 中学生)

 

 人として生まれて来れる可能性はとても少ないことを友達に伝えて、もっと命の大切さを知ってもらいたいと思いました。二人組で話したりしているうちに、自分の長所に気づくことができたので、とても気持ちが軽くなったし、「明日から頑張ろう」という活力をもらうことができました。自分には短所ばかりだと思っていましたが、見方を変えることで長所にすることができると知って、すごく気持ちが楽になりました。また受けてみたいです。( 中学生)

 

 中学生にも大人にも分かりやすいセミナーで、コーチングの意味、テクニックから、生命・宇宙についてのお話まで、幅広くかつ、つながりを持った内容はとても興味深く、4 時間近く飽きることなく受講することができました。理論とご自身の体験を状況に合わせて分かりやすくお話くださり、ありがとうございました。( スクールカウンセラー)

 

<NO. 156 令和元年9月1日発行より>

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