道徳科における評価について ~認め、励ます個人内評価について~

 

 2019年2月25日(月)に江戸川ニューモラル教育研究会が西小岩コミュニティにて開催されました。 その中で、道徳科の評価について発表をさせていただきました。各校で活用していただければ幸いです。

 

1 はじめに
 道徳科元年の年に、私は麗澤大学大学院に新設された道徳教育専攻科で学びの機会を得ています。研究テーマは「児童生徒の道徳性の発達を促す指導と評価の在り方について」であり、副題として「認め、励ます個人内評価を通して」としました。本稿は、修士課程1年目を終えての途中報告になります。

 

2 教科化の背景
 教科「道徳」の背景には、「いじめ問題への対応」「発達の段階を踏まえた内容の充実」「問題解決的な学習を取り入れるなどの指導法の充実」があります。
 この背景を受け止め、実践的に解決していくために、研究仮説として「児童の道徳性を内容項目ABCD視点ごとのくくりで捉えれば、道徳的諸価値の理解が深まるのではないか」「*パフォーマンス課題で*ルーブリックを設定した学習活動をすれば、多面的・多角的に考えるのではないか」「振り返りシートで評価すれば、自己の生き方と関わらせて考えるのではないか」としました。

 *パフォーマンス課題
 教師が意図的に設定した道徳的価値に関わる問題提起
*ルーブリック
 評価の観点を設定し、その観点の尺度を示す評価指標

 

3 実態調査の実施
 まず、道徳授業の責任を担う教師の意識調査をしました。江戸川区立小中学校道徳教育推進教師を対象に実施しました。
 その結果、道徳授業で難しいと思う点は「発問」が最も多く、全体の36%でした。続いて「評価」「意見交流」「教材選定」の順でした。この調査からも、道徳科の指導と評価の在り方について考えることが必要だと思います。
 次に、児童生徒の意識調査をしました。この調査は、昭和36年の文部省「小学校 道徳の評価」を活用しました。教科化の背景にあるいじめ問題にかかわる友人関係の調査であり、調査項目5番目の「あなたは、みんなに好かれていると思いますか」に着目し、児童生徒の自己肯定感を捉えていくことにしました。
 自己肯定感は、自分に対する評価を行う際に、自分のよさを肯定的に認める感情です。東京都教職員研修センターの研究によれば、自尊感情を構成するのは「自己評価・自己受容」「関係の中での自己」「自己主張・自己決定」の3因子であり、この中の「関係の中での自己」に着目しました。
 授業を進めるにあたっては、「道徳的諸価値の理解を基に」「物事を多面的・多角的に考え」「自己の生き方に就いての考えを深める」という学習過程を、「育成すべき資質・能力の3つの柱」に対応させて授業構想を立て、指導と評価の一体化を図るようにしました。

 

4 道徳性の発達段階を捉える
 児童生徒の道徳性の発達を促す指導と評価について考えるには、コールバーグの「道徳性の段階の定義」を押さえておく必要があります。授業者は、児童生徒がねらいとする価値についてどの段階にあるのかを把握し、望ましい発達段階へと促していくことが大切です。学習指導要領では、道徳科において児童生徒の道徳性は評価しないとなっていますが、道徳科の目標が道徳性の育成にある以上、教師はここの児童生徒の道徳性を把握する必要があります。そこで、コールバーグのジレンマ資料「ハインツの悩み」を活用しました。末期癌の妻を救うために夫は薬を盗むべきか否かを判断するという内容です。その結果、対象児童の多くは第3段階にあり、自己肯定感の低い児童は1・2段階でした。

 

5 教材開発
 道徳的諸価値の理解を深める道徳教材として、道徳的価値が混在しているものがより児童生徒の道徳性を養うと考え、絵本教材「からすたろう」を開発しました。「からすたろう」は、八島太郎が一九五五年にアメリカで「Crow Boy」として出版しました。児童絵本として高く評価され、日本では一九七九年に偕成社から出版されました。友情について子供たちに深く考えさせたいと願い教材化しました。

〈からすたろうのあらすじ〉
 「ちび」は、友達もいず、いつも一人。勉強がわからなくても毎日登校した。その理由は、ちびが何でもよく観察し、興味深く感じるからであった。6年生になった時、担任がいそべ先生に替わり、ちびのよいところを引き出してくれた。学芸会で「カラスの鳴きまね」をしたことが、ちびの転機となる。

 

6 授業実践
 相手の立場を考え、お互いに信頼し合って、友情を深め、よりよい友人関係を築いていこうとする態度を育てることをねらいとして、5年児童を対象に授業実践しました。
 指導法の工夫としては、2時間扱いで、パフォーマンス課題「クラスのみんながもっと早くに、本当の友達になるにはどうしたらよかったのか」を設定し、役割演技を取り入れました。
 役割演技に当たっては、児童がルーブリックを作成し、学習活動を自己評価しました。さらに、終末では「振り返りシート」を用意しました。特に「学んだことを積極的に生活に取り入れてみようと思う」に着目し、児童一人一人に自己の生き方と関わらせて考えさせていきました。
 授業における主な発問は、パフォーマンス課題の「クラスのみんながもっと早くに、本当の友達になるにはどうしたらよかったのか」を中心に、「学芸会でのちびの発表を聞いて、クラスのみんなはどんなことを考えたか」などにしました。展開後段では、友達として大切なことは何かを話し合い、考えさせました。
 そして、終末では「心のノート」より「友達っていいよね」を朗読させ、友達の在り方について考えさせました。最後に、「振り返りシート」で自己評価させました。

 

7 授業後の面接調査
 授業対象児童に、授業の前と後に「友情」についてのアンケート調査を行いました。児童一人一人が抱く「友情についてのプラスイメージ」を問うたところ、授業を経て、友情のプラスイメージが、一緒に遊ぶ、一緒に過ごすという単に時間を共有する友人関係から、協力し合う・相談するなどの友達との関わり・助け合うことの大切さを重視する傾向へと変化したことがわかりました。
 さらに、抽出児童への面接調査では、ナリグマンの「ポジティブ心理学の挑戦」の「強みテスト」を活用しました。その結果、生き方と関わらせて意欲が高い児童は感謝の気持ちが高く、生き方と関わらせていくことが苦手な児童は、友達と平等に接することができなかったり、友人関係で選択を誤ったりした経験があることがわかりました。

 

8 研究1年目の成果と課題
 修士課程1年目は、道徳科の教材は多様な価値が混在し、自分の問題として考えさせるものがよいことが分かりました。その際、「教材をいかに活用するか」指導方法を工夫しなければなりません。評価については、教師の側からだけでなく、児童自身に自己評価させることで学びの「見える化」を図ったことは効果的でした。また、「振り返りシート」で自己の生き方に関わらせたことは、児童一人一人の自我関与につながりました。
 しかし、評価についてのルーブリックが学習活動に限られており、道徳的諸価値の理解が十分ではありません。また、よりよい指導法として新たなる教材開発や2時間扱いの授業展開についても実践的に研究する必要があります。
 そこで、修士課程2年目は、これらの課題を受け止め、児童生徒の道徳性を促す指導と評価の在り方を追求する予定です。


<NO. 155 令和元年6月1日発行より>

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