中学校の道徳教科化に向けて―主体性を育てる道徳科の指導と評価―

 

1 今、中学校に求められる主体性の育成と道徳科の指導と評価
 

 平成三十一年度から、中学校でも、考え、議論する「特別の教科 道徳(以下、道徳科)」が完全実施される。道徳科の目標は、新しい学習指導要領の目指す三つの資質・能力の育成を先取りしていると言われる。
 とすれば、中学校道徳科にはチャンスである。教科担任制の中学では、学校のカリキュラム・マネジメントを駆使して、教科等で横断的な汎用能力として主体性の育成が強く求められてきたからである。これは主体的に生きる日本人の育成を目指す我が国の教育理念と一致している。多様な価値観でグローバル化する世界で生きる日本人には、常に問題意識をもち自ら解決をしていく資質・能力が求められているのである。(図1)

 

 一般財団法人教育調査研究所研究部長の寺崎千秋氏は、「課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学びに関する調査」2015.10で、「指導の実態をどのように評価していますか?」の質問には中学校校長職の約6割が肯定的に回答し、取組姿勢の高さが見えているという。(表2)

  新教育課程で目指す三つの資質と能力の観点は、各教科における観点別評価(目標に準拠した評価、いわゆる絶対評価)としてA・B・Cの三段階評価を行う。この点も教科担任制である中学校教員には関心が高い。
 注目したいのは、「学びに向かう力、人間性等」が「主体的に学習に取り組む態度」「感性、思いやり等の個人内評価として、「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」と整理された点である。
 他の二つの観点「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」が認知能力にかかわるのに対して、「学びに向かう力・人間性等」は生徒の生き方の志向を目指すものである。評価・評定を行う各教科だけでなく道徳科でも、生徒の資質・能力に、学ぶ意欲と共に、人間性や道徳性を基盤にした教育が求められている。
 留意点としては、道徳科の指導構造もこの三つに分析はできるが、観点を個々に分節して分析する評価はしない。時間的におおくくりで、個人内肯定評価を記述式で実施すると明記されている。(図3)

 

2 主体性を基盤とした道徳科と各教科の問題解決能力の育成

(1)主体性を生かす問題解決型4ステップ授業の開発
 前任校の東京都北区立飛鳥中学校(北区・文科省研究指定校)では、道徳性と問題解決能力の育成は連動し深まるという仮説で、道徳科と全教科等横断的なカリキュラム・マネジマントを構築し、実践を繰り返した。
 研究主題は「道徳科の指導を基盤に、主体的・対話的で深い学びを実践できる生徒の育成」。
 当初、教科も道徳科も指導過程に問題があった。生徒は知識注入型の授業は面白くないと訴え、保護者からは指導と評価が不明瞭等の指摘があった。そこで生徒の主体性を生かす指導過程として「飛鳥中学校問題解決型4ステップ授業構想(問題把握自力解決集団検討自分でまとめ)」を開発。知的好奇心を大切に、自分で問題を発見し、自分で考え、仲間と語り合い、そして自分の考えを追究し、たくましく生き抜いていく人間を育てたいと考えた。学級・学年・学校マネジメントとして、生徒会自治活動、部活動等の指導マネジメントにも活用した。

 

(2)深い学びの授業の価値
 校内研究部の教員は、中央教育審議会答申から、各教科等の特質に応じた見方・考え方」を働かせた深い学びの授業の視点を ①解決 ②形成 ③創造の3点とした。主体的な学びは、生徒の学びと意欲の根源として自尊感情や自分への確かな自信、他者への貢献の心等とリンクするという仮説を立て実証した。
 生徒の意識調査研究で ①主体的な学び ②自尊感情 ③学習習慣のクロス集計は1%水準で統計的に有意差があった。深い学びは、問題解決型の授業で得られる成果と同軸であると分かった。

 

3 問題解決的な道徳科で深い学びを実践・評価

(1)    教材に内在する問題を発見する問題解決型授業の事例

 学習の指導過程で、自分の考えを深めるため、①自分への振り返りを強くするよう中心人物の人間性を捉える発問の工夫。 ②ゲストティーチャーにコンプライアンスに詳しい地域人材(保護司・元PTA会長)の講話を工夫した。いじめは犯罪で人間として許されないと考えを深化させるねらいである。
・主題名「いじめは人間として決して許さない」・内容項目「 C公正、公平、社会正義」・教材名『卒業文集最後の二行』出展 文科省『中学校・私たちの道徳』・対象中学3年生。・主題設定の理由略。
・教材は、三十年余が過ぎた今でもT子さんへのいじめの罪業を思い出すたびに忍び泣いてしまう筆者「私」が、小学校時代にいじめを繰り返した自分の非情な行為を今でも深い心の傷として後悔する懺悔の手記。
・中心発問は「筆者がT子をいじめてしまった『問題』はなんだろうか」として、問題発見解決的な授業展開である。ペアとグループの話し合いでは「いじめた主人公といじめられたT子の未来の生き方」を想像し、自分の問題として考えさせた。

 

(2)考え議論し深まる道徳科
 生徒の話し合いの時間には十五分を費やした。生徒同士や生徒と担任が語り合いを深め、分岐点というキーワードが生まれた。いじめられた人間は簡単には払拭できない苦しみを背負うが、きっかけがあれば立ち直ることは可能という意見から、人生の分岐点でどう生きるかが大切で、この点に気付くという展開であった。
 実はこのようにいじめた筆者だけでなくいじめられた「T子」を考え、その人生までも想像した授業展開でなければ、分岐点である人生の転機を祈り期待するような個々の生徒の深まりの評価はできなかったと考える。

 

4 中学校の道徳科に期待

 道徳科で大切なことは議論の決着ではない。考え、議論したことが自分の人間としての生き方に深くかかわり、よりよい生き方へ向かうことである。

 戦後八回目の新学習指導要領が告示され、中教審等では子供たちはよりよい社会と幸福な人生の創り手として世界に貢献できる主体的な日本人を掲げている。主体性を追究する中学校道徳科の真の実現が期待される。

 

参考文献
・文部科学省HP・中央教育審議会答申・同初等中等教育分科会等「児童生徒の学習評価の在り方について」の論点整理

 

<NO. 154 平成31年3月1日発行より>

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