「考え、議論する授業」への提案!①
一、主題名「幸せ」を感じる心
【内容項目】22
よりよく生きる喜び
(小学校高学年)よりよく生きようとする人間の強さや気高さを理解し、人間として生きる喜びを感じること
(中学校)人間には自らの弱さや醜さを克服する強さや気高く生きようとする心があることを理解し、人間として生きることに喜びを見出すこと
二、主題設定の理由
小学校高学年・中学生になると、自己と他者との関係に不安を抱きやすくなる。特に自己肯定感をどこに見出したらよいのか、今の自分との葛藤(学業、成績、進路、そこからの比較)の中で悩んでいる。
そこで、生徒が「幸せ」を感じる心を見出すことができれば、よりよく生きようとする態度になると考えた。
三、資料名 「幸せ」を感じる心
ニューモラル No.577
「幸せ」を感じる心
四、本時のねらい
・自分の日常を見つめ、他者に支えられて生活していることに気づき、自己の心のあり方を探る。
五、指導過程
(一)導入
①生活の場面での振り返り
T今、あなたは、どんな気持ちですか。
S・だるい、面倒臭い、やる気満々、晴れ晴れ、イライラ、ねむい、不幸、寂しい、幸せ
②「幸せ」の状況を把握する
T今、「私は幸せだあ!」と思ったことがありますか。
S・ある( )人 ・ない( )人
Tどんなことで「幸せ」と思いましたか。
S・ゲームソフトが手に入った。・成績が上がった。・PCを購入した・携帯購入・部活動が楽しい……
(二)展開
①「幸せ」にはいろいろな人とのつながりがあることに気づく。
T「幸せ」を感じられるのは、誰のおかげだろうか。昨日、今日の一日を振り返ってどんな人に支えられているか表してみよう。
S自分を支えてくれる人マップを書く。
②「足るを知る」という言葉から、自分の日常生活のようすを振り返る。
T「足るを知る」の意味についてどう思いますか。配布した資料を参考にグループで話し合い、発表してください。
グループごとに発表
G1もっと性能のよいものを欲しがったり、もっと新しいものを欲しがったりして満足が得られないので「幸せ」が感じられないと思う。
G2今こうしていることが当たり前と思い、「幸せ」と感じられないのでないかと思う。
G3老子について調べたら、物の多い少ないではなく、心の穏やかさに満ちていることに気づくことが、幸福感につながることがわかりました。
③資料②「幸せの四つの要素」について自分の生活とつなげる。
Tどんなことを満たせば幸福感が得られると思いますか。
S「ありがとう」という感謝の気持ちが増えれば幸福感が得られると思います。
T実はその要素を調べた先生がいて、その要素は次の四つですがあなた方はどう思いますか。グループで資料2をもとに自分の生活と照らし合わせて話し合い、発表してください。
グループごとに発表
G1「やってみよう」が幸福感につながるとは思いませんでした。でも、自分のやりたいことができた時、幸福感を感じたことがあります。
G2「なんとかなる」は、失敗していることを気にする私にとって気が楽になりました。
G3「あなたらしく」は考えもつかなかった。自分の存在、自分らしさが常に生かせることが幸福なことだと思いました。
(三)終末
Tこれからどのような気持ちで生活をしたらよいだろうか。ノートに書きましょう。
資料① 満足を生むのは「足るを知る心」
現在、国内では8割近い人に普及したスマートフォンも、つい10年前には考えられなかったことです。これによって欲しい情報を欲しいときに得ることができたり、連絡を取りたい人といつでもつながることができたりと、従来できなかったことが可能になりました。では、「快適さ」や「便利さ」によって「自分は幸せだ」という実感が増した人は、どのくらいいるでしょうか。
これはあくまで一例です。日本は戦後、家電製品をはじめとしたさまざまなものをつくり出し、一般に普及することで、一人あたりGDP(国内総生産)も、この五十年で約六倍になっています。そうであれば、私たちの「幸せ」もそれだけ増えていてよさそうなものですが、多くの人は、そう感じていないようです。
私たちは、モノや情報があふれる中で暮らしています。今、新しいスマートフォンを手にしても、しばらくたつと「もっと性能のよいものが欲しい」と思ったり、また、手軽に利用できるようになったインターネットで他人の生活ぶりを知ったばかりに、「自分ももっとよい暮らしがしたい」という気持ちを抱くことはないでしょうか。
そこには「満足」ではなく「不足」を思う心がはたらいています。あれがない、これもないと「不足」を数えていけばきりがなく、そうするほどに心はすさんでいきます。
紀元前6世紀の偉大な人物である老子が人間の心のもち方について説いた中に「足るを知るは、常に足る」という言葉を残しています。私たちの幸せとは、物質的な豊かさよりも「今の生活に満足して心穏やかに日々の暮らしを送ること」、つまり「足るを知る心」によるといえるのではないでしょうか。
資料② 「幸せ」の四つ要素
幸せのメカニズムを科学的に解明する「幸福学」の第一人者である前野隆司さん(慶應義塾大学大学院教授)は、日本人1,500人のアンケート調査から、「これを満たせば幸福感が得られる」という四つの要素を導き出しました。
①「やってみよう」
(自己実現と成長)
自分なりの夢や目標、やりがいをもつこと、その実現に努力し、成長することが幸福感を高めるものとなります。
②「ありがとう」
(つながりと感謝)
誰かを喜ばせたり、誰かの感謝や親切にふれたり、愛情に満ちた人とのつながりを感じた時、人は幸せを実感することができます。
③「なんとかなる」
(前向きと楽観)
人生では時に、思いがけないことが起こりえますが「何か悪いことが起きたらどうしよう」と悲観的になるのではなく「まあ、なんとかなるさ」と常に楽観的でいることです。
④「あなたらしく」
(独立とマイペース)
日本人は世間体や人の目を過度に意識する傾向があります。人との比較ばかりしていると、刹那的な生き方になり、幸せを実感しにくい人生となるでしょう。あくまで自分のペースで努力することが、幸せを長続きさせるポイントです。
前野さんによると、幸福感が高い人ほど、この4つの心をバランスよくはたらかせているということです。
前野さんは言います。
「4つすべてを完璧に実践しようと思うと、ハードルが高そうですが、まずは物事を肯定的にとらえるように意識してみることです。私たちはつい目の前の問題を必要以上に悪く見てしまいがちです。ネガティブにとらえがちな自分を客観的に眺め、心を穏やかにすること。そして、この状況は、自分に成長の機会を与えているのだと考え、感謝してみる。もし世界中の人々がこのことを少しでも意識し、実践したとしたら、世界は今よりはるかに平和になれるはずです。」
(参考=『れいろう』平成29年1月号、モラロジー研究所刊)
<NO. 151 平成30年6月1日発行より>