「特別の教科 道徳」の授業づくりと評価

1 「特別の教科 道徳」とこれまでの「道徳の時間」の目標の異同
 「特別の教科 道徳」(以下「道徳科」という)の授業づくりや評価の在り方について考える上で、最も重要なことは、「道徳科の目標」すなわち「(前略)よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を(広い視野から)多面的・多角的に考え、自己の(人間としての)生き方についての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる」(以下( )内は中学校)という内容について正しく理解するということである。そのためにも、「学習指導要領解説特別の教科 道徳編」
(文部科学省のホームページよりダウンロード)を熟読することが大切である。ここでは、最初にこれまでの「道徳の時間」に関する規定との異同について確認することにより、道徳科の授業づくりへの基本となる内容について理解を深めておこう。
 

 「道徳の時間」の目標は次のように規定されていた。「道徳の時間においては、以上の道徳教育の目標に基づき、各教科、外国語活動、総合的な学習の時間及び特別活動における道徳教育と密接な関連を図りながら、計画的、発展的な指導によってこれを補充、深化、統合し、道徳的価値の自覚及び自己の生き方についての考え(道徳的価値及びそれに基づいた人間としての生き方についての自覚)を深め、道徳的実践力を育成するものとする」
 

 冒頭に示した「道徳科の目標」中、太字部分は、これまでの学習指導要領で「道徳の時間」の特質を規定してきた「道徳的実践力」と基本的には同質のものを意味していることとなる。なぜならば、これまでの「学習指導要領解説 道徳編」において、道徳的実践力とは「道徳的心情、道徳的判断力、道徳的実践意欲と態度を包括するもの」と説明されていた内容(「道徳性」の諸様相)が、心情と判断力の順番は異なるものの、そのまま示されているからである。
 

 また、下線部分はこれまでの「道徳的価値の自覚及び自己の生き方についての考え(道徳的価値及びそれに基づいた人間としての生き方についての自覚)を深める」学習とほぼ同質の内容を説明しているといえる。中でも「道徳的価値の自覚」は、いわゆる道徳教育上の専門用語であり、我が国の道徳授業を説明する上での極めて重要な概念である。今回の学習指導要領改訂の議論の過程では、より平明で分かりやすい表現にしようということもあり、学習指導要領本文からは除かれ、冒頭の目標部分にあるような文言による示し方となった。しかしながら、その「解説」では、数か所にわたって「道徳的価値や人間としての生き方についての自覚を深め」等々の記述があることからも分かるように、道徳科の授業においても引き続きその在り方を規定する重要な概念として理解しておくことが必要である。これまでの「解説」では、「道徳的価値の自覚」は三つの事柄を押さえることとして説明してあった。すなわち、「道徳的価値の自覚」は、「道徳的価値についての理解」「自分とのかかわりで道徳的価値がとらえられること」「道徳的価値を自分なりに発展させていくことへの思いや課題が培われること」である。少し表現は異なるが、これまで大切にしてきた「道徳的価値の自覚」へつながる学習指導の姿を、「道徳科の目標」の中により具体的に示したといってよいであろう。今回の「道徳科の目標」部分は、より具体的な授業イメージがもてるような表現になっている。通常、教科の目標は、どのような学習活動を通して、どういう資質能力を育むのかという形で示されることが多い。今回の改訂では、道徳科において求められる具体的学習活動をよりイメージできるように表現し、その次にそうした学習を通して育もうとする資質・能力について示しているのである。
 

 なお、「道徳の時間」のその他の特質として説明されてきた「各教科、外国語活動、総合的な学習の時間及び特別活動における道徳教育と密接な関連を図りながら、計画的、発展的な指導によってこれを補充、深化、統合」するという部分は、新学習指導要領においても、その「指導計画の作成と内容の取扱い」の中でこれまでと同様に規定されている。また、「道徳科」も「道徳の時間」と同様に、教育活動全体を通じて行われる学校における道徳教育の「要」としての位置づけにあることが規定されており、学校における道徳教育の体制の基本的構造は継承されている。
 

 したがって、これまで「道徳の時間」の特質といわれてきたものは、基本的には「道徳科」にも継承されており、その授業づくりの基本ベースは、これまでと同様にしっかりと押さえておかなくてはならない。だからといって、これまでと同じでよいのだという意識ではなく、道徳科に求められている学習指導の在り方について正しく理解し、その本質に基づくよりよい授業づくりに取り組みたいものである。
 

2 「道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめる」ということ
 次に「道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめる」ということについて共通理解しておこう。児童生徒一人一人には、授業以前にその時間のねらいに含まれる道徳的価値(「生命の尊さ・友情」等々)について、一定の理解(宿題等による事前の「診断的評価」も可能)がある。すなわち、そこでは授業以前のレディネスとしての自分なりの「~だから生命は大切だ」「友情とはこういうものだ」といったような一定の理解を基に自己を見つめることもあるだろう。さらに、教材などにより提示された道徳的問題について考えていく学習等を通して、児童生徒一人一人の理解に変容が生まれ、そこで得られた新たな「理解を基に」再び自己を見つめることも考えられる。したがって、「自己を見つめる」学習活動は、その時間内に一回限りとは限らないということであり、ある道徳的価値についての異なる理解ごとに自己を見つめるという学習活動が、その学習指導過程によっては複数回存在するということである。このことは、道徳的判断力の育成にとっても意味あることと言えよう。

 

 道徳的判断力を育てるということは、「道徳的価値についての理解」を前提としている。人間は通常、事柄や事象に関する一定の理解をもとに、自分とは異なる多様な理解も参考としながら思考したり、判断したり、実践したりして、その内容や結果を検証・評価するというプロセスを経て、判断力を高めていくからである。また、「道徳的価値についての理解」が、「自己や人間としての生き方についての考えを深める学習」そして「道徳的価値及びそれに基づいた人間としての生き方についての自覚」の深まりにつながるようにするためには、価値理解はもとよりそのことに関連した人間理解、他者理解そして自己理解が深められるようにすることも求められよう。
 

3 「物事を(広い視野から)多面的・多角的に考える」ということ
 三点目は「物事を広い視野から多面的・多角的に考える」ということについて共通理解しておこう。小学校でも「多面的・多角的に」と示されており、中学校ではさらに「広い視野から」という文言が加えられている。小学1・2年生には難しいように思えることでも、発達の段階に応じてより多面的・多角的な考察は可能となっていくものである。
 

 人間が生きていくうえで出会う道徳的な場面、すなわち善悪が問われる場面というのは、何がしかの「道徳的価値」が介在している場面である。道徳の内容に示されている「道徳的価値」は、決して一面的なものではなく様々な面(多面性)をもっている。たとえば、「生命の尊さ」について考えるならば、生命(いのち)が、有限であるということ、連綿とつながってきているということ、唯一無二であるということなどは、生命それ自体が本質的に有している多面性である。そうしたそれぞれの側面から生命というものをとらえ理解させることができ、生命を価値づけている根拠について考えを深めさせることもできる。こうした学習がすなわち多面的に考えさせるということなのである。
 

 それを多角的に考えさせるとはどういうことであろう。例えば、それぞれの生命は社会的につながっているという社会的関係性の角度から考えさせることであったり、法的保障問題に関連させて「いのちに値段があるか」と、生命そのものの本質とは異なる経済的な角度から考えさせたりすることである。また、現代的な課題として、臓器移植などを教材として取り上げ、自分の立場から考えさせたり、自分以外の立場だったらどうかと考えさせたりすることもできよう。あるいは、過去の時点だったら、未来のある時点だったらと、その時々の学習対象である道徳的価値の本質的な側面(多面性)からだけでなく、それ以外の様々な角度から、すなわち多角的な観点からも考えさせようということである。そうした学習を通して、ある「道徳的価値」について、さらには「自己や人間としての生き方」についてのより「深い学び」が生まれ、その時間のねらいの達成に効果的な学びとなることが期待されるのである。
 

4 「道徳科」における評価の基本的な考え方と実践事例
 最後に、「道徳科」における評価について考えてみたい。学習指導要領には、「児童(生徒)の学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し、指導に生かすよう努める必要がある。ただし、数値などによる評価は行わないものとする」と示されている。また、その「解説」では「数値による評価ではなく、記述式であること」「他の児童(生徒)との比較による相対評価ではなく、児童(生徒)がいかに成長したかを積極的に受け止め、励ます個人内評価(他の児童生徒と比較して優劣を決めるような評価はなじまない)として行うこと」「個々の内容項目ごとではなく、大くくりなまとまりを踏まえた評価を行うこと」等々が示されており、「各学校においては、これらに基づき適切に評価を行うことが求められる」と説明されている。今後、筆者も出席している「道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議」の報告(本原稿執筆時には未発表)の内容等も踏まえた評価の取り組みが交流・共有される中から、無理のない、より効果的な評価の取り組みが広がっていくことが期待される。

 

 いずれにしても、その評価は児童生徒にとっては自分の成長を振り返る契機となるものであり、教師にとっては指導計画や指導方法を改善する手掛かりとなるものであり、常に指導に生かされ、児童生徒の成長につながるものでなくてはならない。したがって、道徳科における評価は、教師が児童生徒一人一人の人間的・道徳的な成長を温かく見守り、共感的な理解に基づいて、よりよく生きようとする努力を認め、勇気付ける働きをもつものとして、児童生徒自身による道徳的な成長の振り返りや道徳性の育みを支援するものにしていきたいものである。
 

 道徳科の授業に関しては、今回「学習状況」の把握と評価が新たに規定された。学習の成果もさることながら、その前提となる学習活動や学習指導過程についての把握と評価による授業改善が、これまで以上に求められているのである。そうした点も踏まえ、すでに通知表に『道徳科の記録欄』を設け、「~の学習では、~の観点から~に気づき、~という考えを深めるとともに、~への憧れを強め、~しようとする発言がみられた」等々の記述形式による実践もみられる。

 また、「解説」に「児童(生徒)の学習状況の把握と評価は、学習指導過程における指導と評価を一体的にとらえることが重要である。学習指導過程を評価するためには具体的な観点が必要である。確かな指導観を基に、明確な意図をもって指導の計画を立て、学習指導過程で期待する児童(生徒)の学習を具体的な姿で表したものが観点となる。その観点をもつことで、指導と評価の一体化が実現する」とあり、「多面的・多角的な思考の中で、道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているか」「他者の考え方や議論に触れ、自律的に思考する中で、自己の生き方や人間としての生き方についての考えを深めているか」等の観点をもとにした評価の実践やその時間のねらいをより具体的なものにして、簡易なルーブリック評価に取り組んでいる実践もある。
 

 今回、道徳科における評価として新たに盛り込まれた「学習状況」の把握と評価という趣旨からも、道徳科の特質を踏まえた効果的な学習活動を工夫し、児童生徒一人一人の確かな学びとなるように意を用いることが大切である。そのためにも、それぞれの時間のねらいが、中核となる学習活動とともに、これまで以上により具体化・明確化される必要がある。たとえば、教材「雨のバス停留所で」を活用した授業のねらいが、「目に見えない約束やきまりの大切さを考え、規則を守ろうとする気持ちや態度を育てる」から「お母さんの横顔を見ながら自分の行動について振り返るよし子の気持ちを考えることを通して、進んでルールやマナーを守ろうとする道徳的態度を育てる」あるいは「バス停で待っていたよし子や周りの人の気持ちに共感しつつ、互いの行動の違いがなぜ表れたのかを考えることを通して、マナーや社会の決まりが必要なわけを知り、進んで守ろうとする道徳的心情を深める」といったねらいに改善された事例もある。今後、こうした実践事例の共有化の広がりが求められるところである。
 

5 むすびに
 道徳授業の質的転換、それはこれまでの取り組みをすべて否定しようというものでは決してない。むしろこれまでの優れた道徳教育・道徳の時間における実践研究を生かしつつも、改めて我が国の道徳教育そして「道徳科」の特質から求められる学習指導のあるべき姿を、正しく理解、確認して、本質的な部分から抜本的に改善・充実を図ろうとするものである。この機会に今一度、学習指導要領に示された趣旨・内容について、「学習指導要領解説」等をもとにしながら、改めてその本質を見極め、道徳科における学習指導についての正しい共通理解を深め、実践し、検証・改善に努めたいものである。我が国における道徳教育に真の実質化と充実がもたらされることを願って。

<NO. 144 平成28年8月1日発行より>

 

Please reload

Please reload

最新記事

このWebサイト上の文書、映像、写真などの著作物の全部または一部をモラロジー研究所の了解なく複製、転用することを禁じます。
〒277-8654 千葉県柏市光ヶ丘2-1-1 TEL:04-7173-3111(代) FAX:04-7173-3113

公益財団法人 モラロジー研究所

  • b-facebook
  • Twitter Round
  • Instagram Black Round