「いじめ問題」への対応を意識した授業づくり〜役割演技の活用を通して〜

1.いじめ問題への対応

 深刻ないじめの本質的な問題に向き合うことが今回の道徳の教科化の背景にある。十月に文部科学省は平成二十八年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」を公表した。その中の、いじめの態様別状況を見ると、小・中・特別支援学校では「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」が最も多く、続いて「パソコンや携帯電話等で、誹謗中傷や嫌なことをされる」が多くなっていることがわかる。また、いじめの認知件数をみると、中学一年生でピークを迎えているが、小学校の低学年から中学年にかけて増加している。私自身、教育現場で様々ないじめ問題に対応してきたがいったん起きてしまったいじめを解消することは大人が思うほど簡単なことではない。

 

 いじめはどこでも起こる。そこには様々な要因がある。しかし、いじめを起こすのも人間なら、いじめを防ぐのもまた人間である。果たして、道徳科はこうした本質的ないじめ問題にどのように向き合っていけばよいのだろうか。

 

2.中学年「よわむし太郎」に役割演技を取り入れた実践

 本教材は従来「勇気」について扱ってきたが、今回の指導要領の改訂により指導内容の見直しが図られ、「正しいと判断したことは、自信を持って行うこと」を指導するように改められた。

 

〈あらすじ〉

 太郎は、背も高く力も人一倍強い。しかし、子供好きの太郎は、子供たちが太郎にどんなにいたずらをしても、にこにこしている。そのため太郎は、よわむし太郎と呼ばれている。

 ある日、子供たちが大切にしている白い鳥を殿様がいとめようとした。その時、太郎は殿様の前に手を広げ、立ちはだかって白い鳥を守ったのだった。

「私たちの道徳(文部科学省)」

 

 これまでの授業では「太郎の行動を支えた気持ち」や「太郎を見守る子供たちの気持ち」を追究する活動を通して「正しいと思ったことは、勇気を出して行おうとすること」のよさについて考える展開が多かった。視点を一人に固定することで自我関与が容易になり、登場人物になりきって価値理解を自分との関わりで深めることができる。

 

 このよさは認めたうえで、本稿では教科化のもう一つの背景にある「多様な他者と議論を重ねて探求し、納得解を得るための資質・能力を育成する」という点に着目した展開として役割演技の活用例を紹介したい。

 

 私は、道徳授業で役割演技を用いる学習には大きく二つの効果があるように思っている。

 

 その一つは、問題解決的なアプローチができるということであり、もう一つは演じることにより、問題場面の状況理解が深まると共に価値理解も深まるという点である。

 

3.問題解決に役割演技を取り入れた授業展開

 本教材の持つ道徳的問題は、「狩りがうまくいかず、腹を立てていた殿様が子供たちの大切にしている白鳥を見つけて、うとうとしたこと」である。

 

 そこで、ねらいは次のように設定した。

 

 自分が正しいと思ったことに基づいて行動することの大切さに気付かせ、迷った時も自信を持って行おうとする意欲を高める。

 

 教材中の殿様は、狩りができれば獲物は何でもよかった。手ぶらでは帰れなかった。そういう殿様を見て、家来たちは獲物が見つかってほっとしている。子供たちは、鳥を助けたいがどうすることもできない。こうした状況を再現することにより、ねらいとする価値理解を実感的に深めることが、本授業の大きな目当てである。

 

 場面を演じるのは、殿様と、その後に控える家来。その様子を、陰で隠れて見ていた子供たち。そして、殿様の前に立ちはだかる太郎とした。

 

 実際の演技がはじまると、太郎は何も言わずただ大きな手を広げて白鳥の前に立った。

 

 殿様は、太郎とその後ろの白鳥に鉄砲を向けたが、やはりだまっている。家来役の一人が「あっちへ行け!」というように太郎を手ではらった。

 

 しばらく沈黙が続いたあと、殿様は諦めたように鉄砲を静かに下した。時間にすると、一分ほどのわずかな時間であった。

 

 演技後に、まず見ていた子供たちに聞くと、

「太郎はずっと黙っていたけど絶対に白鳥を守ろうと思っているように見えた」「家来たちは、困っていた」「殿様は、どうして鉄砲を下したのかな」といった声が聞かれた。そこで、殿様役の子にその理由をたずねてみた。

 

 以下にそのやり取りを書く。

C「太郎は、鉄砲を向けてもずっと鳥の前で立っていた。だからうてないと思った」

T「白鳥をうつのを諦めたの」

C「太郎を見ていたら、白鳥をうちたいという気持ちがなくなったんだ」

T「太郎を見ているうちに気持ちが変わったの」

C「うん。(うなずく)」

 

 次に、子供役の子に聞くと、

C「太郎は、本当は強かった」

C「よわむし太郎ではなかった。じっと動かないで、すごい」と答えた。

 

 最後に、太郎役の子に聞いた。

T「強く見えたと言っているけど、本当は怖くなかったの?」

C「怖かったけど、白鳥を助けたかった。よかった」

 

 役割演技ではこのような振り返りが大切になる。

T「太郎の行動は、殿様や子供たちの気持ちを変えることができましたね。人の心や考えを変えるような強い力は、どんな時に出るのだろう」と投げかけた。

 

 子供たちは、次のように思いつくものを出し合った。

・誰かを助けようと思った時

・悪いことを止めようとした時

・あきらめたくないと思った時

 

 教師はこれらを板書した後、自分が特に大切にしたいことを選ばせ、自分と結びつけた授業の振り返りをさせた。 

 

4.終わりに

 わずかな時間の、ほとんど言葉のないやり取り。それをしっかりと見て考えた子供たち。

 

 役割演技による実感的な理解を通して、価値の学びが自分とつながっていく。学校は自分がそうすることがよいと思った時に太郎のような強い力が出せる子供たちを丁寧に育てたい。

 

 いじめ問題は対処的な指導では効果は期待できないだろう。

 

 善を愛し、他者に思いやりの心を持って接することのできる児童・生徒を本気で育てることなくして、本質的な解決を図ることはできない。共に学び、互いの成長を実感できる道徳授業づくりを大切にしてほしい。

 

<NO. 150 平成30年3月1日発行より>

 

 

Please reload

Please reload

最新記事

このWebサイト上の文書、映像、写真などの著作物の全部または一部をモラロジー研究所の了解なく複製、転用することを禁じます。
〒277-8654 千葉県柏市光ヶ丘2-1-1 TEL:04-7173-3111(代) FAX:04-7173-3113

公益財団法人 モラロジー研究所

  • b-facebook
  • Twitter Round
  • Instagram Black Round