自作資料を使った道徳授業の取り組み

1、はじめに
 私は、学級担任として道徳の授業を進める中で、「子供たちにとって、より身近な話題を取り上げ、心について考えたり、話し合ったりしたい」との思いから、自作資料の作成に取り組んできた。学級担任が作る道徳資料は、その内容を子供たちの実態や気持ちに合わせることができる良さがある。子供たちも資料をもとに今までの自分を振り返り、一人ひとりが思いを語る楽しい道徳の時間を重ねることができた。

 

 これまでの読み物資料作成の実践の中から、香港日本人学校での「李(り)さん、行ってきます!」の取り組みを紹介したい。

 

2、研究テーマ
 「日本人としての自覚」を育てる道徳資料の作成と授業実践

 香港日本人学校での取り組み

 

3、研究テーマ設定の理由
 香港日本人学校小学部香港校では、全学年週三時間の英会話、五・六年生での図工イマージョンの授業が設定され、英語力の優れている児童が比較的多く、英語への抵抗感も少ない。英会話スタッフ・図工イマージョン教師と楽しく英語で話す姿もよく目にする。現地校との交流会も英語で行われることが多い。その反面、香港の公用語である「広東語」が話せる児童は少なく、たくさんの香港人スタッフ、香港に住む香港人とは十分に交流を深めることができていないという現状があった。

 

 そこで、「もっとなかよく ほんこん小」の関連的な学習テーマの中で、内容項目四ー(八)「外国の人々や文化を大切にする心をもち、日本人としての自覚をもって世界の人々と親善に努める」の学習に取り組むことにした。この学習を通して、児童の現地理解が深まり、日本人としての自覚をもって世界の人々とよりよい関係を築いていこうとする意欲を高めることができると考えた。

 

 また、担任学級が第二学年であったため、実際には内容項目 低学年四ー(五)「郷土の文化や生活に親しみ、愛着をもつ」の授業に取り組んだ。現段階での取り組みを通して郷土への愛着をもたせ、発達段階に応じて日本人としての自覚、国を愛する心を育てることができると考えた。

 

4、自作資料作成上の留意点
 資料の作成にあたっては、香港人スタッフのうち児童にとって身近な存在である李(り)さんという香港人ドライバーが登場する物語を設定した。学級児童と共にスタッフルームを訪ねて親しくインタビューをさせていただいた。李さんの話から次の四点の中心的な要素を抜き出し、自作資料を作成することとした。

 

〈李さんのインタビューより〉
○香港日本人学校や児童に対する印象
○李さんが実際に担当している仕事の内容
◎仕事に必要な日本語を学ぶ上での苦労・努力
○子供たちへのメッセージ

 

 以上の4点について、実際の授業の中で道徳的価値の内容に迫ることができるように文章を推敲し、児童にとって容易に解釈できる文章・内容・文字数になるよう検討しながら、自作資料を作成した。

 

 また、主人公の「わたし」を登場させることで、李さんと自分との関係を身近に感じながら、授業の中では主人公の気持ちになって話し合うことができると考えた。

 


[自作資料]

「李さん、いってきます!」 
 わたしたちの香港日本人学校には、李(り)さんという香港人のおじさんが働いています。李さんは、毎朝わたしたちが学校にバスで登校すると

 

「おはよう!今日も元気?」

 

と、笑顔で出むかえて下さいます。李さんの笑顔を見て、私はいつも元気をもらっています。でも、わたしは李さんが学校でどんな仕事をしているのかをくわしく知らなかったので、先生といっしょにインタビューをすることにしました。

 

 李さんは、香港生まれの56才。26才のころから30年間、この学校で働いています。李さんのおもなお仕事は、運転手さん。学校の先生やお客様を車で送りむかえしています。ほかにも、わたしたちが校外へ出ていく時のバスの予定を立てたり、バスをとめる場所を考えたりもしています。安全に乗り降りできる場所を見つけるのは、車の多い香港ではとてもむずかしく、一番気をつかうそうです。ほかにも、学校を見回って、古いところ、こわれたところを見つけて、直しているそうです。

 

「どうして日本語がそんなに上手なんですか?」

 

とわたしがたずねると、李さんは日本語を勉強した時のことを思い出しながら答えてくれました。

 

 李さんは、30年前に日本総領事館の日本語講座で日本語を勉強しました。発音や文法がすごくむずかしくて、なんどもやめたくなったそうです。でも、

 

「日本語が話せるようになればもっと学校のために働くことができる!」

 

「日本語で日本の子どもたちと話したい!」

 

そう思って、がんばって勉強を続けました。少しずつ日本語を覚えて、子どもたちと楽しく会話ができるようになったことががんばれた理由だと教えてくれました。

 

 わたしたちの学校には、李さんのほかにもたくさんの香港人の方がはたらいています。バスの運転手さん、清掃スタッフのおばさんたち、門の守衛さん、水泳のライフセイバーさん。たくさんの人に支えられているんだなと気がつきました。

 

 今日は校外学習。カーパークでは、李さんがバスの見送りをしてくれています。

 

「あ、李さんだ。 むごいさーい(ありがとう)」

 

わたしは、李さんにいつもより大きく手をふりました。


 

5、授業の実際
○主題名「もっとなかよく ほんこん小」
○内容項目 低学年四ー(五)「郷土の文化や生活に親しみ、愛着をもつ」
○資料名「李さん、いってきます!」
○本時のねらい

 香港日本人学校のために、難しい日本語の習得にあきらめずに取り組んだ香港人スタッフ李さんの努力を知り、自分たちが生活する香港への愛着をもち、よりよい関わりを築いていこうとする態度を養う。

 

○本時の展開(本時案)
○授業についての考察

 李さんの温かい人柄にふれることで、子供たちは「もっと李さんとなかよくしたい」「香港の人とふれあいたい」という心情を高めることができた。広東語を勉強したいという子供もいた。また、たくさんの香港人スタッフに支えられて生活していることに感謝の気持ちをもつと同時に、「ほかの人のことももっと知りたいな」という気持ちになれた。外国の方から日本についての素晴らしさを聞く経験は子供たちにとってとても貴重な体験となった。子供たちが「自分は日本代表だ」という気もちで自国に誇りを持ち、香港人スタッフの思いに応えようと生活する姿は、授業者として授業の成果を強く感じた。

<NO. 147 平成29年6月1日発行より>

 

 

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